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Dr.イワサキ

Dr.イワサキプロフィール
岩崎輝雄(いわさき・てるお)

1933年島根県松江市生まれ。協会監事・学術部会代表幹事/北海道大学 健康・予防医学 教育学博士/健康評論家。
温泉健康法として「クアハウス」、森の健康法として「森林浴」を発案、企画・運営指導に携わる。その間、一貫して厚生省、農水省、環境省の補完事業を担当。レジオネラ菌対策、シックハウス対策にも係わっている。
著書に「温泉と健康」(厚生科学研究所)、「クアハウスの健康学」(総合ユニコム社)、「森林の健康学」(日本森林技術協会)などがある。

Dr.イワサキの今月の水のお話し
協会のご意見番「Dr.イワサキ」こと岩﨑教授が、ちょっと気になること、不思議に思うこと、愉快な出来事などなど、毎月楽しい内容をお話ししていきます。

Vol.14◆衛生問題を軽視した「幼児の“プールおむつ”論争」  ―育児主婦の世論を二分する論議のレベルー

 猛暑の今夏に、新たな幼児の“水遊びオムツ”をプールに使用して良いとした容認派と、衛生問題の観点からの禁止派が激しく二分し、複雑な激論を露呈している。
 その背景は水遊び用に開発した幼児の紙オムツをプールに使用したい声と、汚物の可能性の高いオムツをプールに持ち込む非衛生を指摘する声の激突だ。
 日頃筆者はその根底にある課題に強く懐疑的だ。子育て主婦や家庭の主婦に見られる、くらしの利便性に関係する製品を業者が儲け対象にする構図だ。ファーストフード、紙オムツ等、世界に先駆けて開発した商品背景に、費用と手間を省くことが“何でもあり”の風潮をマスコミが許し、主婦は飛びつく。子育てからの解放が育児の手抜きに連動している事実は否定出来ない。
 友人の小児科医師は“自由な個性を尊重する余り、オムツ離れは3歳から4歳児にもみうけられる時代”と嘆く背景に気づく事だ。
 プールは公衆の衛生的で、快適な水環境でのスポーツの場である認識が欠如しているように思う。
 筆者はかつて、シャワー洗浄の便器が開発された折、衛生問題の一環で開発メーカーからの依頼により肛門部皮膚に附着した糞尿の飛散状況と雑菌分布を検査した経験を持つ。水中での離乳期の幼児の糞便は、皮膚での附着度など一般の汚物類とは異質だ。
 自由なオムツ離れを容認する主婦も3~4歳児のオムツ排泄の量の多さの認識もある筈だ。持ち込んだ糞便は水溶性は高く、雑菌の広がりを考えると衛生論議以前の問題で、衛生用品類メーカーにも“個人だけの水遊び用のオムツ”の発想や“プール使用には不適”との使用制限・警告の声が無いのも責任重大だ。
 運動生理的にも、健康な幼児であれば、水の冷感刺激下での運動時の排泄は考えにくいから、水に浸る前の用便を促すことで問題は無く、水着だけでよい筈だ。それが出来ない幼児にはこれまでどおりとし、公衆で他人にも被害を与える可能性のある“プールオムツ”は禁止すべきである。
 しかも、この論争には施設か絡む。公営プールは拒否派、民営プールは容認派の構図も気になる。また、現在でも過密プールの衛生管理、欧米衛生管理の原則である“雑菌の多い頭部にはキャップを!”の制限の無い無防備なのがわが国の現状だ。
 ともかく、育児主婦へのオムツの水中使用の衛生課題への啓蒙と同時に、衛生用品類メーカーに対する早期段階での警告など、行政もマスコミも監視続けるべきだ。
 暮らしの衛生問題討議には“何でもあり”の放任意見には厳しい警告が必要で、どっちつかずではなく、明解な方向指示を望みたい。
 それにしても、どこまで続くか分からない強烈な残暑の中とはいえ、夜ともなると草むらにはコオロギの声も聞こえてくる今日この頃だ。こんな時は旬の味覚・秋刀魚でも食べたいところだが、なんと値段の高いことか。異常気象のツケは財布の中身も軽くするばかりと思う今日この頃である。
                 

(1009-014)